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東京地方裁判所 平成8年(む)1094号 決定 1997年1月31日

主文

一  被告人Aに対する業務上横領被告事件にかかる刑事確定訴訟記録について、平成八年一〇月四日東京地方検察庁検察官がした申立人に対する別紙(一)記載の記録部分についての閲覧不許可処分中、別紙(二)記載の記録部分を除くその余の記録部分の閲覧不許可処分を取り消す。

二  東京地方検察庁検察官は、申立人に対し、閲覧を不許可とした別紙(一)記載の記録部分中、別紙(二)記載の記録部分を除くその余の記録部分を閲覧させなければならない。

三  申立人のその余の申立てを棄却する。

理由

一  申立ての趣旨及び理由

本件準抗告申立ての趣旨及び理由は、「刑事確定記録閲覧一部不許可に対する不服の申立」と題する書面記載のとおりであるから、これを引用する。

二  当裁判所の判断

1  一件記録によれば、申立人は、平成八年一月九日、東京地方検察庁検察官に対し、被告人Aに対する業務上横領被告事件(平成五年刑わ第一五三一号、同第一七九五号)の確定訴訟記録中、身上、経歴、前科、裁判書を除く部分について閲覧を請求したこと、東京地方検察庁検察官は、平成八年一〇月四日、そのうち別紙(一)記載の記録部分について刑事確定訴訟記録法四条二項五号に該当し、かつ、閲覧目的との関連性がなく閲覧の必要性が認められないとして閲覧を不許可とした。

なお右事件は、大和證券大森支店長であったAが、業務上預かり保管中の株券等(時価評価額合計約三七億円相当)を着服横領したことにより、平成七年三月二四日、東京地方裁判所において業務上横領の罪で懲役六年の判決を受けた事件であり、右判決は同年四月八日に確定している。

2  そこで、検察官がした閲覧不許可処分の当否について検討すると、本件未開示記録中、別紙(二)において個別に指摘した供述調書等は、被告人Aと交際のあった女性らがAとの遊興状況等を仔細に述べたものあるいは大和證券の関係者を事実上退廷させた上での同社社員の証言であって、これを申立人に閲覧させることは、刑事確定訴訟記録法四条二項五号にいう「関係人の名誉又は生活の平穏を著しく害することとなるおそれがある」と認められ、本件閲覧の目的(「大和證券株式会社内の顧客管理の在り方をめぐって、同社らを被告として民事訴訟を提起していて、これの証拠資料収集の一環として閲覧の申立てを行った」)等に照らすと、申立人が「閲覧につき正当な理由」(同法四条二項ただし書)を有するとは認められないから、検察官がその閲覧を不許可とした処分は正当である。

しかし、本件未開示記録中、その余の部分は、犯行に至る動機、経緯、犯行状況、横領資産の使途、裁判経過等を裏付ける証拠であり、そのうちには大和證券の営業内容や顧客との取引状況等大和證券の業務や顧客のプライバシーに関わる証拠もあるものの、確定訴訟記録の公開を原則とする法の趣旨に照らすと、これを申立人に閲覧させても、「関係人の名誉又は生活の平穏を著しく害することとなるおそれがある」とまでは認められない。

3  以上によれば、本件申立ては、本件未開示記録中、別紙(二)記載の記録部分を除くその余の記録部分の閲覧不許可処分の取消しを求める限度で理由があり、その余は理由がないので、刑事確定訴訟記録法八条、刑事訴訟法四三〇条一項、四三二条、四二六条二項、一項により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 田尾健二郎 裁判官 菊池則明 裁判官 杉原奈奈)

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